鍵山優真選手×山一ハガネ 対談/インタビュー
先日、鍵山優真選手が山一ハガネにご来社くださいました。
研ぎ澄まされたスケーティング技術と心に響く演技で、観る人の記憶に残り続ける鍵山選手。
2024-2025シーズンは、グランプリファイナルでの銀メダル獲得、全日本選手権での優勝、世界選手権での銅メダル獲得など、世界のフィギュア界を牽引するエースとして国内外の舞台で活躍されました。
昨シーズンを終えて感じたことや、プログラム作りの裏側、そして、演技の奥にある想いまでたっぷりお聞きしましたので、対談形式でファンの皆さまへお届けします。

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昨シーズンと今シーズンについて
えり(山一ハガネ営業社員):2024-2025シーズン、お疲れ様でした!
鍵山選手:ありがとうございます!
えり:昨シーズンを振り返ってみていかがですか?
鍵山選手:昨シーズンは、一言でいうと試練のようなシーズンでした。僕はジュニア後半~シニアに上がってオリンピックに出るまでずっと上り調子で来ていました。2022年に怪我をしましたが、復帰してからも好成績で自分のやりたいパフォーマンスができていました。それが「今シーズンはいよいよ身体も万全で世界一を狙うしかない!」というタイミングで「結果を出さなきゃ」という気持ちが勝ってしまって、自分の本当の目標や細かなビジョンを見失ってしまいました。なかなか悔しい思いをする試合が多かったです。ですが、シーズンが終わった今は、オリンピックシーズンに調子やメンタルが下がるよりも、オリンピックが始まる前に挫折を経験できたことが自分にとってとても良い経験だったと思っています。すべての経験が自分のためになると思っているので、昨シーズンはとても濃い一年だったと言えます。今はオリンピックに向かって良い調子と良いメンタルで練習ができていますね。
えり:シーズン前半にあったNHK杯と全日本選手権では、鍵山選手の演技を生で観ることができました。鍵山選手の演技が始まった瞬間会場の雰囲気が変わり、氷の上での存在感をとても感じましたし、やはりフィギュア界を引っ張っていくようなスケーターなのだなと思ったのを覚えています。年明けからの試合は悔しい思いをすることが幾度かあったかと思いますが、今は前向きな気持ちで次のシーズンを見据えられているのが分かり、とてもうれしい気持ちです。
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えり:シーズンが終わってからはどんなふうに過ごされましたか?リフレッシュなどできましたか?
鍵山選手:リフレッシュはあまりできていないです(笑)世界選手権が終わってすぐカナダに行き、SPの振付をしてから国別対抗戦に出場し、その後も式典などに出させていただいていました。また、昨シーズンの反省をして、これから自分がどんな目標を持つか・どんなパフォーマンスをしたいかのビジョンをイメージして、オリンピックに向けての準備をしていましたね。
えり:次のプログラムはどんなイメージでいらっしゃいますか?
鍵山選手:SPは、北京シーズンのプログラムに似たジャズ系統の音楽です。18歳の時は若々しくて勢いがありましたが、今度はより洗練された大人っぽい感じで、少し酔いしれているような男性をイメージしています。僕はもともとジャズの乗り感が好きなので、SPはジャズにしたいと振付師の方にお願いしました。FSはイタリアのとても有名なオペラである、トゥーランドットです。まだ振りを入れたばかりですが、すでにこのプログラムは自分にしかできないだろうなという自信があります。SPもFSも、オリンピックで滑るイメージがとても湧いています。試合を重ねてこのプログラムを完成させていくのが楽しみです。
※追記 鍵山選手のSPは、全世界が注目するピアニスト 角野隼斗さんとポーランドのスーパーテクニックギタリスト マーシンさんのコラボ曲「I Wish」と発表されました! 気持ちがとても盛り上がってわくわくしてくるような曲で、この2025-2026シーズンがますます楽しみです!
えり:次のプログラムを色で例えると、どんな色になりますか?
鍵山選手:難しいな(笑)衣装の色とは関係なく自分の感覚で言うのであれば、SPはオレンジ色かな。明るい曲調です。今、このオレンジのライトを見てそう思いました(笑)


鍵山選手:FSはプログラム内に起承転結があるので色を1つに絞るのは難しいのですが、白から情熱の赤になってクライマックスを迎えるようなイメージですかね。
えり:振付は今回もローリー・ニコルさんでしょうか?
鍵山選手:はい、SPもFSもお願いしました。
えり:昨シーズンの『Sound of Silence』は、氷を削る音を出さずにスケーティングをされる、鍵山選手のエッジワークの質の高さを際立たせるプログラムでしたよね。『Ameksa』は初めてフラメンコをテーマにしたプログラムでした。次のシーズンのプログラムにはどんなこだわりがありますか?
鍵山選手:次のシーズンは自分のスケートのすべてが詰まった集大成のようなプログラムで、とても自分らしいと感じます。ローリー先生の振付も毎年どんどん難しくなっていくので、挑戦もあります。
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えり:プログラムを作るときに一番大事にしていることは何ですか?
鍵山選手:ローリー先生は難易度の高い提案をしてくださるので、最初は「その動き本当に自分にできるのかな?」と思うアイデアもたくさんありますが、できそうになくてもまずはやってみることを大事にしています。やってみたら意外と自分に合っていた、というような新しい発見もたくさんあるので、考えるよりまずは動いて、楽しんでやっています。それから、フィギュアスケートは360°会場から見られるので、ジャッジから見てどう見えるかだけではなく、後ろから見たときにも映えるような動きや、全体に目線を配って表現することを意識しています。見ている人たちに自分のストーリーや世界観を伝えることを大事にしていますね。
鍵山選手のスケーティングについて
えり:一番好きな技はありますか?
鍵山選手:ジャンプは四回転サルコウを得意技としてやらせていただいています(笑)この人といえばこの技、みたいな。四回転サルコウは、自分の中では一番流れが出るジャンプだと思っていて、満点に近いような点数をいただいたこともあり、自信のあるジャンプです。自分の象徴と言ってもいい技です。また、僕はノービス時代からスピンが好きで色んなポジションをたくさん練習していたのですが、一番好きなのはドーナツスピンです。男子選手だとあまりやっている人がいないので昔から取り入れている技です。
えり:四回転サルコウでとても印象に残っているのが、今年の世界選手権のSPです。鍵山選手のジャンプの軸がかなり斜めになってしまって、一瞬「!!!!」と思ったのに、しっかり綺麗に着氷されて感激しました。
鍵山選手:僕もあれはヒヤッとしました(笑)普通は軸が少し前傾になるのですが、あの時はかなり後ろに引っ張られてしまっていましたね。気合で着氷しました。後から動画を見たら「これ転ばない方がおかしくない?」と思いました(笑)実況の方もあの瞬間息をのんでいたので、申し訳なく思いました(笑)

えり:反対に、苦手意識のある技はありますか?
鍵山選手:今は何に対しても苦手意識を持たないようにしていますが、昔はトリプルアクセルに苦手意識を持っていました。ショートにもフリーにも入れないといけない要素で、特にショートは絶対失敗できないので、跳ぶ瞬間はいつも緊張します。
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えり:これまで様々な技を習得されてきた中で、想定していたよりもはやく習得できた技はありますか?
鍵山選手:それもトリプルアクセルですね。もともと小学生のころ、ダブルアクセルを習得するのに2年半くらいかかったので、トリプルアクセルは一生跳べないのではないかと思っていました。先に四回転ジャンプを練習して成功させていたのですが、しっかり締める力が身に着いてから挑戦したら、2週間ほどで成功できるようになりました。
えり:宇野昌磨さんも、トリプルアクセルより先に四回転ジャンプを成功させたんですよね。
鍵山選手:意外と四回転ジャンプのほうが締めやすいという選手は多いと思います。四回転ジャンプが跳べるようになってくると、そのパワーでトリプルアクセルが跳べるようになるという人は結構いると思います。
練習について
えり:普段は睡眠や食生活でどんなことに気を付けていらっしゃいますか?
鍵山選手:睡眠は、8時間とるようにしています。2022年の怪我の原因は慢性的なもので、日頃の疲労や負担の蓄積に対して自分の体の回復が追い付いていなかったことが原因でした。なので、その日の疲労はその日に回復させられるよう、練習後はクールダウンをして、お風呂からあがったらストレッチをし、ご飯をしっかり食べ、8時間睡眠をとる、という意識をしています。
えり:好きなストレッチや筋トレメニューなどはありますか?
鍵山選手:えーどうだろう(笑)縄跳びとか、ボックスにジャンプするようなトレーニングとか、ジャンプ系は好きですね。縄跳びはコロナ渦に四重跳びまで習得しました。バランス系や体幹系は「はやく終わらないかな」と思っちゃうくらい苦手です。
えり:トレーニングはどんなスケジュールですか?
鍵山選手:練習前に陸でのウォーミングアップは40分取り入れています。トレーニングだけの日も月に2回ほどありますね。氷に乗るのは週6日、1日3時間は滑っています。
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えり:お休みの日はお家でまったりか、外に出てリフレッシュか、どっち派ですか?
鍵山選手:基本的には家で過ごすのですが、海外遠征の時は時差調整のために外に出ますね。
えり:選手の皆さんのSNSで海外遠征中の様子を見るのが好きです。フィンランディア杯でムーミンのぬいぐるみをたくさんお迎えしていたり、アジア冬季大会で氷祭りに行かれていたりと、皆さんがタイトなスケジュールの中でもその瞬間を楽しんで臨まれていて安心します。
鍵山選手:海外の料理は楽しみにしています。フィンランドではサーモンスープがとっても美味しくて3回食べました(笑)行ってよかったなと思いましたね(笑)

えり:練習していて「今日調子悪いな」という時は自分にどんな言葉をかけますか?
鍵山選手:調子が悪い日は、その日しっかりできたところを見つけて、全力で褒めてあげます。調子が悪い時は悪いところに目が行きがちで、せっかくできたことも気分の落ち込みでできなくなってしまうこともありますよね。悪かったところは見つめ直して次に行かせるように、でもできたところはしっかり自分を褒めてあげるようにしています。
試合について
えり:一番緊張するのは、前日の夜・当日の朝・演技直前など、どんなタイミングですか?
鍵山選手:演技直前の六分間練習からとても緊張しています。前日の夜に緊張で眠れない、ということはないのですが、大きい会場を前にして「ここで滑るんだ」と考えると緊張してしまいます。
えり:緊張のコントロール方法や自分を落ち着けるためにやっていることはありますか?
鍵山選手:僕は直前まで音楽を聴いています。それから、緊張をダメだと否定せずに、緊張している自分を受け止めてあげるようにしています。お客さんの表情や、国旗・バナーを見ると落ち着くので、名前を呼ばれて氷の上に出ていくときは、周りを見渡してから自分のスタート位置につくことが多いですね。
えり:ショートとフリーで緊張感は違いますか?
鍵山選手:僕はショートのほうが緊張します。3つのジャンプ、3つのスピンと、エレメンツの要素が少ないので、どの要素も欠けてはいけないし、ミスもできない、リカバリーもできない。ショートの順位が良いとフリーもいい気持ちで迎えられますが、ショートが良くないと焦った気持ちを次の日まで引きずってしまいます。ショートで良い順位をとって、フリーはのびのび滑るだけだという状況をつくるのが理想ですね。でも、フリーもフリーで結果が決まる試合なので、緊張します。

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えり:試合後に映像で自分の演技を観返すときは、まず何を見ますか?
鍵山選手:まずはジャンプを見ます。成功したジャンプも失敗したジャンプも、何が良くて何がダメなのか、フォームを確認します。あとは、目線が落ちていないかとか、ステップが思いっきりできていたかどうかなどを見ます。
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えり:試合後に食べるなら、お寿司派?焼肉派?
鍵山選手:お寿司です。
えり:一番好きなネタはなんですか?
鍵山選手:サーモンとエビです(笑)

ブレードについて
えり:ブレードについて、どんなところを気に入っていただいていますか?
鍵山選手:初めてYS BLADESで滑ったときは、一蹴りに対しての伸び感に驚きました。本来その人が持っている能力を全部解放してくれるようなブレードです。ジャンプもとても飛びやすいですし、自分のスケートの感覚が変わりました。以前はベースプレートがパキッと折れてしまうことが何回かあったのですが、YS BLADESに変えてからはずっと元気です。
えり:もしブレードに性格があるとしたら、YS BLADESはどんな性格ですか?
鍵山選手:性格!?すごい質問だ(笑)

鍵山選手:でも……すごく純粋だと思います。素直に滑ってくれる。純度100%のスケートができると思っています。
えり:YS BLADESに変えてから、スケートにどんな変化がありましたか?
鍵山選手:スケートの技術が1段階レベルアップしたと思います。細かなエッジさばき・テクニックが今までよりスムーズにできるようになりました。自分のレベルアップにブレードがついてきてくれて、純粋に自分のやりたいスケートに応えてくれるので、ありがたく思っています。
えり:もしYS BLADESどう?と周りの方に聞かれたら、どんなふうにおすすめしますか?
鍵山選手:「スケートの世界が変わるよ」って言いたいですね。変えた当初は「自分のスケーティングこんなに伸びたっけ?」と思ったほど、本当によく滑りますし、滑っていて楽しいですし、景色が全然違うと感じました。
えり:ありがとうございます!
ファンの方へ
えり:ファンの方からのお手紙やSNSでのメッセージなどは届いていますか?
鍵山選手:僕はSNSもお手紙もぜんぶ見ています。ずっと昔からファンでいてくださる方や、オリンピックからファンになってくださった方、最近ファンになってくださった方など、色んな方に応援していただいていて、本当にありがたく思っています。僕はスケーターとして演技をすることでしか感謝を伝えることができないかもしれませんが、自分のパフォーマンスでお返しができるような素晴らしい選手になりたいと日々思っています。
えり:ファンの方から言われて嬉しかったことや印象に残っているメッセージはなにかありますか?
鍵山選手:「応援しています」とか「頑張ってください」が素直に一番嬉しいですね。試合でも「がんばー!」って色んな人が叫んでくださるのもありがたいですし、タオルや国旗、バナーを見るのもとてもテンションが上がります。
えり:もし、大会の会場でファンの方と目が合って、一瞬テレパシーを送れるとしたら、なんて伝えますか?
鍵山選手:「頑張ります!!!」って伝えます!

最後に
えり:来シーズンの目標を教えてください。
鍵山選手:来シーズンはもちろん、オリンピックに出場して、金メダルを取りたいです。そのためには、ひとつひとつの過程がとても大事で、どう練習してどう成長していくかによってオリンピックの結果も変わってくると思っています。なので、普段の生活やストレッチなどどんな小さなことでも丁寧に、必要なことを欠かさず積み重ね、日々を大事に過ごしていきたいです。
えり:応援しています!今日はたくさん教えていただきありがとうございました。とても貴重なお時間でした。今後ともブレードを通して鍵山選手を応援させていただきますので、これからもがんばってください!
鍵山選手:ありがとうございます!
お土産タイム
えり:先日、次のシーズンに向けてブレードは送らせていただきましたが、今日は鍵山選手応援グッズをお渡ししたくて……!ゴールドのYS BLADES『藍』バッグチャームです!オリンピックでぜひ金メダルを!という想いを込めさせていただきました。
鍵山選手:すごい!名前も入ってる!かわいい!ありがとうございます!応援メッセージもありがとうございます!


えり:ぜひ使っていただけると嬉しいです!では、今日は初めて山一ハガネにお越しいただいたので、ブレードの製造現場もご案内させていただきます!
工場見学タイム
えり:ここがYS BLADESを製造している、弊社の金属加工工場です。金属には温度に合わせて伸び縮みする特性があるので、この工場の温度は年間を通して23°±0.5°で管理されています。この10kgの鋼の塊が、ブレードの材料ですよ。
鍵山選手:わ!重い!!!

えり:この10kgから、およそ280g~300gのブレード1本が出来上がります。最終的に製品になるのは、元の材料のたった3%なんです。
えり:YS BLADESを削り出しているのは、こちらの機械です。材料を3つ載せて、3つ同時に削っています。
鍵山選手:すごい!写真撮ってもいいですか!?

鍵山選手:今まで工場の中に入るという経験をしたことが無かったので、とても面白いです!すごいです!
えり:喜んでいただけて私も嬉しいです!ありがとうございます!またぜひ来てくださいね!



「やっぱり黒かっこいい!」「僕は青色が一番好きなので、自分のブレードの名前が『藍』で本当に嬉しいんです!」と、我々をどこまでも喜ばせてくださる鍵山選手。

(「もし『藍』のペーパーナイフができたら、いっぱい宣伝しますよ!」と言ってくださいました。ファンの方からもお声をいただいたら、実現できるかも?しれません。)

